「膝の外側が痛い。でも、できれば走るのをやめたくない。」
腸脛靭帯炎になったランナーなら、一度は思うのではないでしょうか。
私も、腸脛靭帯炎は複数回経験しました。フォームローラー、ストレッチ、筋トレ。それだけでなく、体外衝撃波治療やdry needlingも実際に受けました。
では、腸脛靭帯炎は走りながら治せるのでしょうか。
フォームローラーは効く?
ストレッチは必要?
中殿筋を鍛えれば治る?
体外衝撃波やdry needlingには意味がある?
そもそも、なぜ腸脛靭帯炎になる?
今回は、研究でわかっていることと、自分自身の体験を分けながら整理していきます。
腸脛靭帯炎ってどんなもの?
腸脛靭帯炎(iliotibial band syndrome:ITBS)は、ランナーに多い膝外側部痛の代表的な原因です。
典型的なのは、走っていると膝の外側が痛くなるという症状です。
最初はある程度走ったところで痛くなり、休むと少し楽になる。でもまた走ると、同じところが痛い。
悪化すると、走り始めてすぐ痛くなったり、階段や歩行でも痛みを感じたりすることがあります。
ランニング障害の中でも比較的よくみられる病態で、過去のsystematic reviewでは、ランニング障害の約5〜14%を占めると報告されています。
そもそも、なぜ腸脛靭帯炎になるの?
ここは、意外とすっきり答えられません。
よく、
「腸脛靭帯が硬いから」
「中殿筋が弱いから」
「O脚だから」
「骨盤が広いから」
と言われます。
でも、今の研究をみると、原因をひとつに決めるのは難しいです。
トレーニング負荷、走り方、筋力、身体の使い方、もともとの骨格など、いくつかの要素が重なって発症すると考えるほうが自然です。
まずは「最近、何か変えなかった?」を振り返る
ランナーとして、まず見直したいのはここです。
たとえば、
- 急に走行距離を増やした
- 久しぶりにロング走をした
- 下りをたくさん走った
- トレイルを始めた
- 連日走った
- スピード練習を増やした
- シューズを変えた
- レース前で急に練習量を増やした
など。
腸脛靭帯炎は典型的なoveruse injuryです。
身体が耐えられる負荷より、実際にかけた負荷のほうが大きくなったときに、症状が出やすくなります。
なので、「自分の脚の形が悪いのでは?」と考える前に、ここ数週間で練習内容がどう変わったかを振り返るほうが、実際には役立つことが多いです。
走り方は関係する?
ある程度は関係していそうです。
systematic reviewでは、ITBSを発症した女性ランナーで、
・股関節内転が大きい
・膝の内旋が大きい
といった特徴が報告されています。
ただし、これは全員に当てはまるわけではありません。
研究数もまだ多くなく、
「このフォームだから腸脛靭帯炎になった」
と断定できるほど単純ではありません。
しかも、痛みが出たあとに走り方が変わっている可能性もあります。
なので、走り方は「原因のひとつになりうる」くらいに考えるのがよさそうです。
中殿筋が弱いから?
これもよく言われます。
実際、ITBSのある女性ランナーで、股関節外転筋力が低かったという報告はあります。
でも男性では同じ結果が出ていなかったり、発症前から弱かったのかどうかがはっきりしなかったりします。
つまり、
「中殿筋が弱いから腸脛靭帯炎になった」
とまでは言えません。
ただし、治療として股関節周囲筋を鍛えることには、比較的よい支持があります。
ここは少しややこしいところです。
原因として証明されていないことと、治療として役に立たないことは別です。
O脚や扁平足は原因?
O脚、X脚、脚長差、扁平足、過回内、Q-angle。
昔からいろいろな要素が原因候補として挙げられてきました。
でも、今のところ、脚の形だけでITBSを説明できるほど強い根拠はありません。
O脚だから必ずなる。
扁平足だから治らない。
そんなふうに考える必要はなさそうです。
静止して立ったときの形より、走っているときに股関節・膝・足部がどう動くかのほうが、最近は注目されています。
女性はなりやすい?
ITBSは女性ランナーに多いとする報告があります。
ただし、
「女性は骨盤が広いからITBSになる」
と説明するのは、少し単純すぎます。
性差による股関節運動や筋力、走り方などが複合的に関係している可能性はありますが、「骨盤の形そのもの」が原因とまでは言えません。

自分の脚の形が悪いから、と思わなくて大丈夫
O脚、扁平足、骨盤幅など、自分では変えられない身体の特徴に原因を求めたくなりますが、それだけでITBSを説明できる強い根拠はありません。
練習負荷や筋力、走っているときの動きなど、変えられる部分にも目を向けたほうが現実的です。
一番知りたい。走りながら治せる?
ここが本題です。
結論から言うと、
腸脛靭帯炎だからといって、必ず「痛みが完全にゼロになるまで一歩も走ってはいけない」というわけではありません。
でも、
痛みを我慢して、いつも通り走り続ける
のとも違います。
大切なのは、症状を悪化させている負荷をいったん減らし、そこから少しずつ戻していくことです。
完全休養が正解とは限らない
ITBSの保存療法では、2〜8週間程度の介入で痛みや機能が改善した研究があります。
ただし、研究ごとに治療法はかなり違います。
「痛み3/10までなら走ってOK」
「5kmまでなら大丈夫」
といった、ITBS専用の明確な基準が決まっているわけでもありません。
なので私は、
- 走っているうちに痛みが強くならないか
- 痛みでフォームが変わっていないか
- 翌日に明らかに悪化しないか
- 少しずつ走れる距離が伸びているか
を見ながら調整するほうが実用的だと思います。
下りだけ痛いときは?
ITBSでは、平地は走れるのに下りだけ痛いということがよくあります。
下りでは、平地と比べて膝の曲がり方や接地の仕方が変わります。
さらに、下りが続くと大腿や股関節周囲が疲れて、フォームも崩れやすくなります。
トレイルランナーなら特に、
平地 → 短距離 → 距離を延ばす → 坂・下り
という順番で戻すほうが無理がありません。
フォームローラー・ストレッチ・筋トレ、結局どれがいい?
ここは、たぶん一番気になるところです。
ざっくり整理すると、こんなイメージです。
| 方法 | エビデンスの印象 | 位置づけ |
|---|---|---|
| 筋トレ | 比較的あり | 治療の中心候補 |
| ストレッチ | 限定的 | 補助的 |
| フォームローラー | ITBSへの直接的根拠は弱い | 症状緩和目的なら可 |
| 体外衝撃波 | 小規模臨床試験あり | 難治例の補助療法 |
| Dry needling | 小規模RCTあり | 難治例の選択肢 |
| ステロイド注射 | 急性期の短期効果あり | 限定的に検討 |
※これは正式なエビデンスのグレードの評価ではなくて、研究数や質、ITBSにどこまで直接当てはまるかをもとにした大まかな整理です…。
筋トレはどう?
この3つの中では、比較的支持されています。
特に、股関節外転筋を含む股関節周囲筋の強化は、ITBSの保存治療でよく使われています。
ただ、
「中殿筋だけ鍛えれば治る」
というほど単純ではありません。
股関節周囲筋だけでなく、片脚支持での安定性や、膝・股関節のコントロールも含めて考えるほうが自然です。
ストレッチはどう?
腸脛靭帯炎と聞くと、
「とにかくITBを伸ばそう」
となりがちです。
でも、実はエビデンスはそこまで強くありません。
一般的なストレッチで、腸脛靭帯そのものの長さや機械的特性が大きく変わる可能性は低いとする報告があります。
つまり、
ITBが硬い → ストレッチで伸ばす → 治る
という説明は、ちょっと単純すぎるということです。そらそうですよね…。
だからといって、ストレッチが無意味なわけではありません。
TFLや殿筋など周囲の筋肉への影響や、可動域、ストレッチ後の感覚などには変化があるかもしれません。主役というより補助役として使うのがよいのではないでしょうか?
フォームローラーはどう?
ランナー界では定番ですね。
私も使います。
でも、フォームローラーで硬いITBをゴリゴリ伸ばすというイメージには、少し注意が必要です。
健康成人を対象にしたRCTでは、フォームローリングをしても、超音波elastographyで測定したITB stiffnessには明らかな変化がみられませんでした。
つまり、当たり前ですが、
フォームローラーでITBそのものが柔らかくなる
とはちょっと言えません。
一方で、フォームローラー全般には、ROMの改善や「動きやすくなった」という感覚の変化が報告されています。
なので私は、

フォームローラーをすると楽になるなら使ってOK。でも、痛いほどITBをゴリゴリすれば治る、という根拠はありません。
くらいに考えています。
結局、何を優先する?
①負荷を見直す
②筋力や動きを整える
③ストレッチやフォームローラーを補助的に使う
という順番がしっくりきます。
この順番がそのままRCTで証明されているわけではありません。
でも、「フォームローラーだけでなんとかする」より、まず練習量や走り方を見直すほうが理にかなっています。
セルフケアで治らないときの治療
多くのITBSは保存療法で改善します。
基本は、負荷調整+運動療法です。
それでもなかなか治らないときには、もう少し積極的な治療が選択肢になります。
体外衝撃波治療
体外衝撃波治療、いわゆるshockwave therapyです。
ITBS患者40人を、dry needling群とshockwave therapy群に分けたランダム化試験があります。
どちらも、痛みと機能は改善しました。
多くの評価時点では大きな差はなく、4週間後の痛みだけdry needling群がやや良好でした。
つまり、
体外衝撃波が圧倒的に優れているわけではないけれど、難治例で使う選択肢としてはありそう
というくらいの位置づけです。
Dry needling
同じ試験では、dry needlingでも痛みと機能が改善しました。
興味深いのは、dry needlingでも体外衝撃波でも、ITBの長さ自体は変わらなかったことです。
つまり、
「鍼でITBが伸びた」
「衝撃波でITBがほぐれた」
から良くなった、と単純には説明できません。
症状は改善していても、効いている仕組みは別にあるのかもしれません。
ただし、この研究はn=40の小規模RCTです。
有望ではありますが、まだ「これが標準治療」と言えるほど強いエビデンスではありません。
ステロイド注射は?
これも研究があります。
発症2週間以内のITBSランナーを対象にした小規模RCTでは、局所ステロイド注射で短期的にランニング中の痛みが改善しました。
ただ、対象者は18人で、観察期間も短いです。
なので、
急性期で痛みが強いときの短期的な選択肢
くらいに考えるのがよさそうです。
注射だけで根本的に治す、という位置づけではありません。
私も腸脛靭帯炎になりました
ここからは、論文ではなくn=1の私自身の体験です。
研究結果とは分けて読んでください。
私もランニング中に腸脛靭帯炎を経験しました。
フォームローラー、ストレッチ、筋トレといったセルフケアだけでなく、
体外衝撃波治療・dry needling・ステロイド注射すべて
を実際に受けています。
発症したとき
はじめてロングレース(ITJ)に出た後。
アドレナリンが切れたゴールゴから膝の外側に違和感を感じ始め、痛みを確信しました。帰路は下りの階段がとんでもなくつらかったです…。
走ったり走らなかったりを繰り返しながら、違和感消失までに1年くらいかかったように思います。
体外衝撃波を受けてみた
大人になって、痛みで涙が出そうになったのは始めてでした!笑
弾かれるような、突き刺されるような、内側に起こる耐え難い痛みでしたが、自ら大金を払って(体外衝撃波は基本的に自費診療です)受けているのですから、歯を食いしばって耐えました。
直後は、麻痺したように痛みが消えました。しばらくすると痛みは再燃するものの、回を繰り返す毎に痛みのピーク値は下がっていったように思います!
結局、4-5回やりました〜。
Dry needlingも受けてみた
麻酔してからやったので、それほど痛みはありませんでした。
自分で調べた文献を手に、知り合いの外来で依頼したのですが、「針が骨に刺さって出血するくらいブスブスしてください!」って言われた医者はドン引きしたと思います。
個人的には、それほど効果は感じませんでした。
ステロイド注射も受けてみた
もちろん即効性は抜群です。病院を出る頃には痛みは違和感程度に変わっていました。
ただ、痛みは再燃し、それほどピーク値が減ったとも感じませんでした。
結局、何が一番効いた?
個人的には、
時間(日にち薬)>>>体外衝撃波>筋トレ
でしょうか。結局、どう足掻いても、自然経過に勝るものはないと感じました。
もちろん衝撃波を含めた補助的な治療をしていなかった場合の経過は神のみぞ知る…ですので、自然経過による治癒過程を促進できていた可能性はあると思います。
では、また腸脛靭帯炎になったら私はどうするか?
直近に本命レースがあれば、体外衝撃波を選択するでしょう。ただそれほど焦って走る用事がなければ、負荷を軽減して経過を観察すると思います。完全休養は、しないと思います。
これ、本当に腸脛靭帯炎?
膝の外側が痛いからといって、必ずITBSとは限りません。
たとえば、
- 外側半月板損傷
- 外側側副靭帯損傷
- 大腿二頭筋腱障害
- 膝窩筋周囲の障害
- 疲労骨折
- 膝蓋大腿関節由来の痛み
など、ほかにも原因はあります。
一度受診したほうがいいサイン
膝が腫れる
ロッキングする
明らかな外傷があった
歩くだけでも強く痛い
安静時にも痛い
夜も痛い
数週間負荷を減らしても改善しない
こういう場合は、
「またITBSだろう」
と自己判断せず、一度整形外科で確認することをおすすめします。
整形外科医ランナーとして思うこと
腸脛靭帯炎になると、「もう走らないほうがいいのかな」と不安になります。
でも、腸脛靭帯炎=完全休養でもなければ、痛くても根性で走るでもありません。
大切なのは、
今の自分が耐えられる負荷までいったん戻して、そこから少しずつ走れる身体に戻していくこと
だと思います。
そして、
「O脚だから」
「骨盤が広いから」
「腸脛靭帯が硬いから」
と、自分では変えられない部分だけを原因にしなくて大丈夫です。
実際には、
・トレーニング負荷
・筋力
・走り方
・回復状況
など、変えられる要素もたくさんあります。
まとめ
腸脛靭帯炎について、現在の研究から言えることをまとめます。
・ITBSの原因はひとつではない
・トレーニング負荷、走り方、筋力など複数の要素が関係する
・女性に多い傾向はあるが、「骨盤が広いから」と単純には説明できない
・O脚や扁平足だけが原因という強いエビデンスはない
・筋トレは保存療法の中では比較的支持されている
・ストレッチだけでITBそのものを伸ばせるという根拠は弱い
・フォームローラーでITB stiffnessが改善するという直接的な根拠も乏しい
・体外衝撃波とdry needlingは小規模RCTで疼痛・機能改善が報告されている
・急性期にはステロイド注射で短期的な疼痛改善を示した小規模RCTがある
・完全休養ではなく、負荷を調整しながら段階的にランニングへ戻すことが大切
「何をすればよくなるか」だけを考えるより、
なぜ今、自分の身体がこの走行負荷に耐えられなくなったのか
を考えるほうが大事なのかもしれません。
腸脛靭帯炎になっても、ランニングを諦める必要はありません。
焦らず負荷を調整しながら、また気持ちよく走れるところまで戻していきたいですね。
※この記事は一般的な医学情報を解説するもので、個別の診断・治療を目的とするものではありません。症状が強い場合や改善しない場合は、医療機関でご相談ください。
主な参考文献
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