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ランニングで膝はすり減る? 整形外科医ランナーが研究から解説

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「そんなに走って、膝悪くならないの?」

ランニングをしていると、一度は言われたことがある人も多いのではないでしょうか。

確かに、走れば着地のたびに膝には大きな力が加わります。

それを何千回、何万回と繰り返すのだから、

「走れば走るほど軟骨がすり減って、将来変形性膝関節症になる」

というイメージは、一見もっともらしく思えます。

私自身、整形外科医として働きながら、フルマラソンやトレイルランニングをしています。

では実際のところ、ランニングは膝を壊すのでしょうか。

結論から言うと、

趣味として行うランニングが、変形性膝関節症のリスクを高めるという明確なエビデンスは、現在のところ、ありません。

むしろ研究によっては、適度に走っている人のほうが変形性膝関節症が少ないという結果も出ています。

今回は、「走ると膝がすり減る」というイメージを、これまでの研究から考えてみます。


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そもそも「膝がすり減る」とは?

一般に「膝がすり減った」と言うとき、多くの場合は変形性膝関節症(knee osteoarthritis:膝OA)を指しています。

膝関節の表面は関節軟骨で覆われています。

変形性膝関節症では、軟骨だけでなく、半月板、軟骨下骨、滑膜など膝関節全体にさまざまな変化が起こり、進行するとX線で関節裂隙の狭小化や骨棘形成がみられます。

こゆき
こゆき

年齢、体重、遺伝、過去の外傷や手術、筋力、身体活動など、さまざまな要因が関係しています。

その中で「ランニング」という負荷が、本当にOAを増やすのか。

これを調べた研究がたくさんあります。


実は、趣味のランナーは膝OAが少ない?

この分野で非常に有名なのが、2017年に発表されたsystematic review・meta-analysisです。

25研究、合計12万人以上を対象として、ランナーを

  • recreational runner(趣味として走る人)
  • competitive runner(プロ・エリートレベルなど競技として高強度に走る人)
  • control(非ランナー)

に分けて比較しました。

股関節または膝の変形性関節症の有病率は、

趣味のランナー 3.5%
非ランナー 10.2%
競技レベルのランナー 13.3%

でした。

「あれ?」と思いませんか。

「走れば膝がすり減る」という単純な話なら、ランナーほどOAが多くなりそうです。

ところが、最も少なかったのは趣味で走っている人でした。

もちろん、この研究だけから「走ればOAを予防できる」とまでは言えません。

ランニングを続けられる人はもともと健康である、体重が軽い、筋力がある、といった選択バイアスも考えられます。

また、競技レベルのランナーでOAが多かった理由についても、高強度・高走行距離そのものだけでなく、過去のスポーツ外傷などが影響している可能性があります。

それでも少なくとも、

「ランニングをしている人は、していない人より膝OAが多い」

という単純な図式にはなっていません。


長年走り続けても、本当に大丈夫?

「若いうちはよくても、20年、30年と走ったらどうなの?」

これも気になるところです。

2008年には、中高年の長距離ランナー45人と非ランナー53人を約18年間追跡した研究が報告されています。

研究開始時の平均年齢は約58歳。

つまり、そこから70歳代まで追跡しています。

最終的なOAの割合は、

ランナー 20%
非ランナー 32%

で、ランナーのほうがOAが多いという結果にはなりませんでした。

重症OAについても同様で、長距離ランニングによってX線上の変形性膝関節症が速く進行するとは示されませんでした。

さらに2023年のsystematic reviewでは、17研究、ランナー7,194人、非ランナー6,947人をまとめて検討しています。

その結果、ランナーで画像上の変形性膝関節症が増えるという明確な証拠はなく、むしろ膝痛は非ランナー群に多く認められました。

長期間走れば走るほど、単純に膝が削れていく。

現在の研究結果は、どうやらそんな単純な話ではなさそうです!


でも、ランニングって膝にものすごい力がかかるのでは?

ここからが、私がこのテーマで特に面白いと思うところです。

確かに、ランニング中の膝には大きな力がかかります。

歩行とランニングの膝関節荷重を比較した研究では、

歩行 体重の約2.7倍
ランニング 体重の約8.0倍

と、ランニングのpeak loadは約3倍になりました。

これだけ見ると、

「やっぱり走ると膝に悪そう」

と思いますよね。

ところが、同じ研究で1m進むために膝が受ける荷重を計算すると、

歩行 0.75 ✕体重/m
ランニング 0.80 ✕体重/m

と、有意な差がありませんでした。

なぜでしょうか。

走ると1回の着地にかかる力は大きくなります。

しかし一方で、

地面に足がついている時間が短く、1歩が長い。

そのため、同じ距離を移動するときの累積的な膝への荷重は、歩行とそれほど変わらなくなるのです。

「一瞬の最大荷重が大きい=関節が壊れる」

とは限らない。

これは、ランニングと膝を考えるうえで非常に面白いポイントです。


さらに面白いのが「軟骨は負荷に反応する」ということ

関節軟骨は、無機物のクッションではありません。

負荷を受ける生体組織です。

ランニング前後にMRIを撮影して、軟骨がどう変化するかを調べた研究も数多くあります。

2023年のsystematic review・meta-analysisでは、24研究、446膝を解析しています。

走った直後には、膝の軟骨の厚みや体積が一時的に約3〜5%減少していました。

「ほら、やっぱり軟骨が減ってる!」

と思うかもしれません。

でも、これは軟骨が削れて消えているわけではありません。

軟骨は水分を多く含む組織なので、荷重を受けることで一時的に圧縮され、その性状が変化します。

実際、MRIで測定した軟骨のT2値は約91分以内に元のレベルまで回復していました。

また、もともと存在していた軟骨損傷がランニング後48時間以内に悪化するという結果も示されませんでした。

つまり、走る → 軟骨が圧縮される → 回復する という動的な変化が起きています。

現在では、ランニングによる適度な機械的刺激に対して、軟骨が適応している可能性も研究されています。

「軟骨は使えば使うほど減る消耗品」

というイメージとは、少し違うようです。


では、走れば走るほど膝にいいの?

ここは注意が必要です。

「ランニングは膝に悪くない」ことと、「どれだけ走っても絶対に大丈夫」は同じではありません。

先ほど紹介したmeta-analysisでも、競技レベルのランナーではOAの割合が高くなっていました。

一方、2023年に週の走行距離と膝OAの関係を調べたsystematic review・meta-analysisでは、走行距離が増えるほどOAが増加するという明確なdose-response relationshipは確認されませんでした。

したがって現時点では、

「週30kmなら安全」
「週100kmを超えたら危険」

といった明確なラインを医学的に決めることはできません。

ウルトラマラソンのような極端な走行量まで含めて、長期間の影響が完全に解明されているわけでもありません。

ここは、「ランニングは安全だから無制限に走ってOK」と拡大解釈しないことも大切です⚠


走行距離より気にしたいもの

2024年に報告された3,804人のマラソンランナーを対象とした研究も興味深い結果でした。

対象者は平均43.9歳で、平均9.5回のマラソンを完走していました。

解析すると、股関節または膝の関節症と関連していたのは、

年齢
BMI
過去の股関節・膝関節の外傷
過去の股関節・膝関節の手術
家族歴

などでした。

一方で、

何年間走ってきたか
マラソンを何回走ったか
週に何km走るか
どのくらいのペースで走るか

は、関節症の有意な予測因子ではありませんでした。

特に既往外傷や手術の影響は大きく、同研究では過去の股・膝の外傷歴は関節症と強く関連していました。

ランナーにとっては、

「走った総距離」だけを怖がるより、ケガをきちんと治し、体重や筋力を含めた身体の状態を整えながら走ること

のほうが重要なのかもしれません。


すでに変形性膝関節症がある人は走ってはいけない?

さらに難しい問題です。

「健康な膝ならいいとして、すでにOAがあるなら走らないほうがいいのでは?」

と思いますよね。

この点を調べた研究もあります。

Osteoarthritis Initiativeという大規模研究のデータから、50歳以上ですでに膝OAがある1,203人を調べた研究では、4年間の経過で、

ランニングをしていた人に

X線上のOA進行が増える
新たな膝痛が増える

という結果は認められませんでした。

むしろ、ランナーでは膝痛が改善する傾向も認められました。

ただし、ここにはとても重要なポイントがあります。

研究対象者は「研究のために無理やり走らされた人」ではありません。

自分の膝の状態に合わせて、自分で走る量や強度を選んでいた人たちです。

ですから、

「OAがあっても全員どんどん走りましょう」

という意味ではありません。

ただ、

変形性膝関節症があるという理由だけで、一律にランニングを禁止する根拠も乏しい

ということです。


膝が痛くても「走っているせい」とは限らない

もう一つ覚えておきたいのが、

膝の痛み=変形性膝関節症ではない

ということです。

ランナーの膝痛には、膝蓋大腿部痛、腸脛靭帯炎、半月板障害、腱障害、疲労骨折など、さまざまな原因があります。

逆に、X線で変形性膝関節症があっても、ほとんど痛みがない人もいます。

「走っているから膝が痛い」
「膝が痛いから軟骨がすり減っている」

と自己判断してしまうと、本当の原因を見逃してしまうことがあります。

痛みが強い、腫れている、引っかかる、膝崩れする、安静にしていても痛む、痛みが長く続く、といった場合には、一度整形外科で原因を確認することをおすすめします。


整形外科医ランナーとして思うこと

整形外科の外来では、

「もう走らないほうがいいですか?」「運動しないほうがいいですか?」

と聞かれることがあります。

もちろん、膝の状態によっては負荷を減らす必要がありますし、ケガをした状態で無理に走り続けることを勧めるわけではありません。

こゆき
こゆき

でも、「ランニング=膝を消耗する行為」と考えて、

大好きなランニングを必要以上に怖がる必要もないと思っています。

これまでの研究をまとめると、

一般的な趣味レベルのランニングが変形性膝関節症を増やすという証拠はなく、むしろランナーでOAが少ないとする研究もある。

そして、一歩ごとの大きな衝撃だけでは、長期的な関節への影響を説明できません。

私たちの関節は、車のタイヤのように「使った距離だけ削れていく」ものではないのです。

もちろん、痛みを無視して走り続ける必要はありません。

でも、

膝を大事にすることと、走らないことはイコールではありません。

自分の膝の状態と相談しながら、できるだけ長く楽しく走っていきたいですね。


まとめ

趣味として行うランニングが、変形性膝関節症を増やすという明確なエビデンスはありません。

むしろ、

・recreational runnerではOAが少ないという報告がある
・長期間走ってもOA進行が速くならなかった研究がある
・走行時のpeak loadは大きくても、距離あたりの累積荷重は歩行と大きく変わらない
・ランニング直後の軟骨変化は小さく、一過性と考えられている
・走行距離より、過去の外傷、BMI、年齢などのほうがOAとの関連が明確
・すでにOAがある人でも、自分に合った範囲でのランニングを一律に禁止する根拠は乏しい

というのが、現在わかっていることです。

「走ったら膝がすり減るからやめたほうがいい」

そんな言葉だけで、ランニングを諦める必要はなさそうです。

「どの程度なら走ってOK」というラインを定めることはできません。

ただ、OAの有無だけでランニングを諦めるのではなく、膝が痛む場合にはその原因をきちんと確認し、自分の状態に合った負荷で走ることが大切です。

※この記事は一般的な医学情報を解説するもので、個々の症状に対する診断・治療を目的としたものではありません。膝の痛みや腫れなどが続く場合は、医療機関でご相談ください。

主な参考文献

  1. Alentorn-Geli E, et al. The Association of Recreational and Competitive Running With Hip and Knee Osteoarthritis: A Systematic Review and Meta-analysis. J Orthop Sports Phys Ther. 2017.
  2. Chakravarty EF, et al. Long distance running and knee osteoarthritis. A prospective study. Am J Prev Med. 2008.
  3. Dhillon J, et al. Effects of Running on the Development of Knee Osteoarthritis: An Updated Systematic Review at Short-Term Follow-up. Orthop J Sports Med. 2023.
  4. Miller RH, et al. Why don’t most runners get knee osteoarthritis? A case for per-unit-distance loads. Med Sci Sports Exerc. 2014.
  5. Coburn SL, et al. Is running good or bad for your knees? A systematic review and meta-analysis of cartilage morphology and composition changes in the tibiofemoral and patellofemoral joints. Osteoarthritis Cartilage. 2023.
  6. Lo GH, et al. Running does not increase symptoms or structural progression in people with knee osteoarthritis: data from the Osteoarthritis Initiative. Clin Rheumatol. 2018.
  7. Hartwell MJ, et al. Does Running Increase the Risk of Hip and Knee Arthritis? A Survey of 3804 Marathon Runners. Sports Health. 2024.

この記事を書いた人 こゆき

こゆきとばっきーのアバター

整形外科専門医・大学院生。
整形外科診療に携わりながら、大学院では膝関節を中心とした運動器の研究をしています。

ランニングが趣味で、フルマラソンから100マイルのトレイルまで幅広く楽しんでいます。

ランナーとして実際に感じる疑問を、整形外科医の視点から医学論文やエビデンスをもとに、できるだけわかりやすく解説します。

※掲載内容は一般的な医学情報であり、個別の診断・治療を目的とするものではありません。

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