
エナジェルに入っているアミノ酸やBCAA、それってどれだけの量が入ってたらどんな効果があるのか気になったので調べてみました!

アミノ酸とBCAA、その役割とは
エナジージェルのパッケージを見ると、「アミノ酸○○mg」「BCAA配合」といった表記が並んでいることがあります。これらは一見すると別々の強力な成分のように見えますが、実際には少し整理が必要です。
まず前提として、BCAAはアミノ酸の一部です。ロイシン、イソロイシン、バリンという3つのアミノ酸をまとめてBCAAと呼びます。つまり「アミノ酸」と「BCAA」は本来は同じグループに属しており、分けて書かれているのは機能的な違いというよりも、“見せ方”の違いに近いものです。

実際の製品では「アミノ酸2000mg+BCAA1000mg」といった表記が見られることがありますが、これを単純に合算して「合計3000mg」と捉えるのは正確ではない場合があります。BCAAはアミノ酸の一部であるため、総量の中に含まれているケースも多く、結果として成分量が多く見えるようなパッケージになっていることがありそうです。
では、そのBCAA自体にはどのような意味があるのでしょうか。
持久系スポーツにおいてBCAAに期待されている効果の中心は、「中枢性疲労の抑制」です。運動が長時間に及ぶと、血中のトリプトファンが増加し、それが脳内に取り込まれることでセロトニンが増え、疲労感が強まると考えられています。BCAAはこのトリプトファンと脳への輸送を競合するため、理論上はセロトニンの増加を抑え、結果として「きつさの感じ方」を軽減する可能性があります。

ここまでの話だけを見ると、BCAAは持久力を支える有効な成分のように思えます。しかし、実際の研究を丁寧に見ていくと、その印象は大きく変わってきます。
研究ではどうなっているのか
BCAAに関する研究は古くから数多く行われていますが、その多くが共通して示しているのは、「主観的疲労は変わる可能性があるが、パフォーマンスはほとんど変わらない」という結果です。
- 研究その1
- 研究その2
- 研究その3
- 研究その4
- レビュー
【研究①】BCAAは“きつさ”は下げるが“速さ”は一貫して変えない
研究デザイン(Blomstrand et al., 1991)
- 被験者:男性ランナー
- 条件:30 kmクロスカントリーまたはマラソン中にBCAA摂取 vs プラセボ
- 用量:マラソンでは合計約16 g
- 種目:実走レース(持久系ランニング)
結果
- 精神的パフォーマンス:改善
- 競技成績:
- 速い群:有意差なし
- 遅い群:改善が報告
結論
競技パフォーマンスの改善は一貫して確認されていないが、BCAAは主観的・精神的な疲労には作用する可能性がある
【研究②】BCAAは回復には有効な可能性
研究デザイン(Greer et al., 2007)
- 被験者:未トレーニング男性
- 条件:BCAA(0.1g/kg) vs プラセボを運動前、運動後で摂取(体重70kgなら各7gずつ)
- 運動:長時間持久運動
結果
- 筋損傷マーカー:低下
- 筋肉痛:軽減
- パフォーマンス:変化なし
結論:回復には寄与する可能性があるが、パフォーマンスは変えない
【研究③】トリプトファン比は変わってもパフォーマンスは変わらない
研究デザイン(Van Hall et al., 1995)
- 被験者:持久運動を行う被験者
- 条件:BCAAまたはトリプトファン摂取下での持続運動
- 評価項目:トリプトファン/BCAA比および運動パフォーマンス
結果
- トリプトファン比:変化
- 運動パフォーマンス:改善は認められず
結論
トリプトファン→セロトニン仮説に関わる操作をしても、競技パフォーマンスには反映されないが、中枢性疲労に関わる生理学的指標は操作可能
【研究④】糖質がある環境ではBCAAの上乗せ効果は限定的
研究デザイン(Davis et al., 1999)
- 被験者:持久運動を行うトレーニングされた被験者
- 条件:炭水化物単独、炭水化物+BCAA、プラセボの3群
- 用量:
- BCAA:約6〜7 g
- 炭水化物:運動中に適切量補給
- 運動:高強度間欠ランニング(intermittent high-intensity running)
結果
- 炭水化物単独、炭水化物+BCAAでもパフォーマンスは改善
- しかし炭水化物単独 vs 炭水化物+BCAAで有意差なし
- 主観的疲労(RPE):炭水化物で低下するが、BCAA追加による明確な上乗せ効果は限定的
結論
- 持久パフォーマンスに対して最も重要なのは糖質補給で、BCAAを追加しても、その効果は上乗せされない可能性が高い
【レビュー】中枢性疲労仮説は理論的には成立するが、パフォーマンス改善は一貫しない
出典:Meeusen et al., 2006
- 種別:レビュー論文
- 内容:トリプトファン増加、セロトニン仮説、BCAAとの競合を整理
- 要点:理論的には成立するが、実際のパフォーマンス改善は一貫しないと報告されている
中枢性疲労の指標は変化する可能性があるが、それがパフォーマンスにどの程度影響するかについては一貫した結論が得られていないことが指摘されている。
例えば、運動中に16gのBCAAを摂取した研究では、精神的パフォーマンスの改善が見られても全ての層で競技成績を改善したかと言えばそうではありませんでした。同じように6-7gのBCAAを摂取した研究でもBCAA単体がパフォーマンス改善に寄与したかは不明となっています。
ここで重要なのは、「量」です。研究で使われているBCAAは、5g、場合によっては10g以上というかなり高用量です。それでもなおパフォーマンスは変わらない可能性が高い。つまり、“十分な量を使っても速くはならない”可能性が高いというのがまず一つの前提になります。
ではなぜ、疲労感は変わるのにパフォーマンスは変わらないのでしょうか。
そもそも持久力系のパフォーマンスとは
この疑問を理解するには、持久系パフォーマンスのボトルネックを整理する必要があります。
ランニングや自転車といった持久系競技において、パフォーマンスを決定づける主な要因は、筋グリコーゲン(糖質)、水分・電解質バランス、そして体温調節です。言い換えれば、「エネルギーを供給できるか」「脱水やオーバーヒートを防げるか」という点が極めて重要になります。
BCAAはこれらのどれにも直接関与しません。エネルギー源としての寄与はごくわずかであり、糖質の代わりにはなりません。したがって、どれだけBCAAを摂取しても、エネルギー不足による失速そのものを防ぐことはできないのです。

一方で、中枢性疲労の抑制によって「きつさの感じ方」が変わる可能性はあります。しかしこれはあくまで“感覚”の話であり、筋肉が実際に出せる出力や、利用できるエネルギー量が増えるわけではありません。
ではなぜBCAAは効果がある気がするのか
それでもBCAA入りのジェルを摂取して、マラソンが楽に走れた!記録が伸びた!思ったより出し切れた!と感じるランナーがいるのは事実です。この体感は錯覚ではありませんが、その原因は単一でもありません。
まず第一に、ジェルの主成分は糖質です。適切に補給できれば、それだけでパフォーマンスは安定します。これを「BCAAの効果」と誤認しているケースや、そう誘導されているケースは少なくありません。
次に、カフェインなど他の成分の影響も大きい要素です。カフェインは中枢神経に作用し、明確にRPE(主観的疲労)を下げることが知られています。これがBCAAの効果と混ざって認識されている可能性があります。
そして最後に、BCAAそのものが持つ「わずかな主観的疲労の軽減効果」です。これは完全に否定されるものではありません。ただし、それがパフォーマンス向上に直結しないという点が重要です。

つまり、体感は正しいが、その原因は複合的であり、BCAA単独の効果とは限らないということになります。
ジェルに含まれる量とのギャップ
ここで改めて、市販ジェルに含まれるBCAA量を見てみます。
多くの製品では、BCAAは1本あたり500mg〜1500mg程度、多くても3g前後です。これは研究で使われている5〜10gという量と比べると、明らかに少ない水準です。
| 製品名 | BCAA量もしくはBCAA含むアミノ酸の総量 |
| AminoVital aminoshotなど | 2.5-5.0g(BCAA含むアミノ酸の総量) |
| AMINO SAURUS Elite | 0.6g |
| OVERBLAST BCAA | 0.5g |
| FULLSPE | 0.5g |
| MEDALIST AMINO LIQUID | 1.5g |
| ATHLETUNE ENERGAIN | 0.8g |
| ATHLETE Q10 | 1g |
| SAMURAI CHARGE PRO | 3g |
つまり、1本では研究で効果が限定的だった量よりも、さらに少ない量という構図になります。
この時点で、BCAA入りジェル1本で「パフォーマンスに明確な影響を与える」と考えるのはかなり難しくなります。万が一それでも精神的疲労感をBCAAで下げるんだ!と考えるのであれば、BCAA入りのものを複数本用意して疲労を感じ始めるまでに摂取しておく必要があると言えそうです。
まとめ、結局どれくらいの量が必要?
ここまでを整理すると、BCAAの位置づけはかなり明確になります。
BCAAは、エネルギーを供給する成分ではなく、あくまで「疲労感に影響を与える可能性がある成分」です。研究でも、主観的なきつさの軽減は一部で確認されていますが、パフォーマンスの向上にはつながっていません。そしてその研究でさえ、高用量を前提としたものです。
一方で、市販のジェルに含まれている1本あたりの量はそれよりも大幅に少なく、効果が現れる条件からはさらに離れています。
したがって、BCAAは“速くするための成分”ではなく、“きつさの感じ方を少し変えるかもしれない成分”として割り切れるのであれば、その必要量は5g(5000mg)-10g(10000mg)以上の高用量と考えると良さそうです。
上記の研究では筋損傷マーカーの低下や筋肉痛の軽減という回復に役立ちそうな結果も示唆されていたのでそちらの効果も得られるといいですね。
ちなみにアミノ酸は過剰摂取しても尿素に代謝されるので安全性には問題ありませんが、それは常識の範囲内という注釈付きです。過剰摂取が効果にそのままつながるものでもありませんので、常識の範囲内で摂るようにしてください。
引用参考文献リスト
Blomstrand E, et al.Administration of branched-chain amino acids during sustained exercise — effects on performance and on plasma concentration of some amino acids.European Journal of Applied Physiology, 1991.
Blomstrand E.A role for branched-chain amino acids in reducing central fatigue.Journal of Nutrition, 2006.
Meeusen R, et al.Central fatigue: the serotonin hypothesis and beyond.Sports Medicine, 2006.
Meeusen R & Watson P.Amino acids and the brain: do they play a role in “central fatigue”?International Journal of Sport Nutrition and Exercise Metabolism, 2007.
Greer BK, et al.Effects of branched-chain amino acid supplementation on fatigue during prolonged exercise.Journal of Sports Medicine and Physical Fitness, 2007.
Davis JM, et al.Central nervous system effects of fatigue during prolonged exercise.Medicine & Science in Sports & Exercise, 2000.

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