第4回【なぜ“あの快感”が消えていくのか? ランナーズハイの科学】〜ランナーズハイ?似て非なる走りの快感〜

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それって本当にランナーズハイ?本当は違う走りの快感

ランニング中に「気持ちよくなった」「頭がスッキリした」「集中しすぎて時間を忘れた」――
それ、全部“ランナーズハイ”だと思っていませんか?

実はそれぞれ異なる脳内メカニズムによる快感で、ランナーズハイとは微妙に違うんです。今回は、“似ているけど別モノ”の快感たちを紹介しながら、ランナーズハイとの違いを解説していきますよ。


そもそもランナーズハイとは?はこちら↓

第1回【なぜ“あの快感”が消えていくのか? ランナーズハイの科学】〜ランナーズハイの正体とは?〜
ばっきー走ったことがある人のほとんどが一回は経験したであろうランナーズハイ!その正体に迫るシリーズをやっていくよ!🧠ランナーズハイの正体とは?脳内で起きている科学を探るみんな経験したことある?ランニング中やその後に感じる「無敵モード」や高揚...

β-エンドルフィンやアナンダミドといった「鎮痛・抗不安・幸福感」をもたらす神経伝達物質の作用でしたね。ある程度長時間・高強度の有酸素運動後に感じやすい、幸福感・没入感・痛みの減少が特徴です。

でも、ラン中に得られる快感はそれだけではないのです。

🌀1. フロー(Flow)状態

ランニング中にふと感じる、「もうずっと走っていられそうだ」「苦しさがなくなり、体が勝手に進むような感覚」。これがいわゆる「ランナーズハイ」かと思っている人は多いでしょう。でも、実はこの感覚、「フロー(Flow)」と呼ばれる心理状態と混同されて語られることも少なくありません。

ミハイ・チクセントミハイによって提唱された「フロー」と、エンドルフィンやアナンダミドといった脳内物質の分泌によってもたらされる「ランナーズハイ」。似ているようでまったく異なるメカニズムから生まれるこのふたつの状態は、ランナーにとって幸福の源泉ともいえる体験です。

まず、フローとは、目の前の活動に完全に没入し、時間や自我の感覚すら忘れるような深い集中状態のこと。ランニングにおいても、この状態に入ると「気づいたら5km走っていた」「時計を見るのを忘れていた」といった体験が起きます。フローは、自分のスキルと課題のバランスが取れ、集中すべき明確な目標があるときに起こりやすい。つまり、速すぎず遅すぎず、自分の走力にフィットしたペースで走っているとき、フローに入りやすいのです。

特徴:

  • 「完全な集中」「時間感覚の消失」「思考が透明になる」
  • 脳内ではドーパミン・ノルアドレナリンが関与

こんなときに起きやすい:適度なチャレンジ+明確なゴールがあるとき(例:インターバル、PB更新狙い)

💡フロー ≠ ハイ:幸福というより“没入”が主役です

💥2. アドレナリン・サージ(Adrenaline Surge)

アドレナリン・サージは、いわば身体が“戦闘モード”に入るためのスイッチです。
スタートラインに立ったとき、あるいはインターバル走の直前、突然スイッチが入ったかのように心拍が上がり、呼吸が浅く早くなり、集中力が研ぎ澄まされていく——そんな感覚があったとしたら、それはアドレナリンの作用です。

これは「交感神経」が優位になることで、副腎髄質からアドレナリンが分泌され、身体が瞬間的に活動モードに切り替わる反応です。古来から“闘争か逃走か”の場面で発動する生理的システムであり、運動開始直後にもこのスイッチはしばしば入ります。

その結果として、心拍数は上がり、筋肉への血流が増え、爆発的な力が引き出されます。
つまりアドレナリン・サージは、「これから走るぞ!」という場面で身体を“立ち上げる”ための緊急ブースターのような存在なのです。

特徴:

  • 心拍数の上昇、鋭敏な感覚、興奮状態
  • ノルアドレナリン+アドレナリン(交感神経系の活性化)

こんなときに起きやすい:

  • レースやスプリント、ゴール前の追い込み
  • 集団走でのペースアップ、刺激走など

💡アドレナリン快感 ≠ ハイ:これは“戦闘モードの快楽”。達成後に来る“脱力感”が特徴的。

☁️3. セロトニン優位の「穏やかな満足感」

セロトニンは、脳内で“安定”と“心の落ち着き”を司る神経伝達物質。気分を整える働きがあり、不安を和らげ、前向きな気持ちを生み出してくれる、いわば「心のバランサー」です。

リズミカルな運動、特にランニングのような一定のテンポを持つ有酸素運動は、このセロトニンの分泌を促進することが知られています。その結果、ランニング中や走ったあとの「なんとなく気分がいい」「よく眠れる」「ポジティブになれる」といった感覚は、セロトニンの働きによるものと考えられます。

この効果は、特に軽〜中程度のランニングでも十分に得られるため、日常的に走る習慣を持っている人にとっては“ベースの快感”とも言えるものです。

そのためセロトニンによる快感とランナーズハイは、どちらもランニングの中で体験できるものですが、実感としてはかなり異なりますセロトニンは穏やかで持続的。気分の安定や精神の明瞭さをもたらし、日常的なランニングの楽しさや爽快感を支えるものです。一方ランナーズハイは、痛みすら心地よく感じるほどの多幸感。身体的負荷が高まった先に、ふと訪れるドラマチックな快感です。違いは「静かな幸せ」か「突き抜ける快感」かということですね。

特徴:

  • 安定感、心の落ち着き、自己肯定感の上昇
  • ランニング後しばらくしてから訪れる“心の深呼吸”感

こんなときに起きやすい:ゆっくりしたロングジョグ、森林浴ラン、日曜朝の散歩ジョグ

💡セロトニン快感 ≠ ハイ:瞬発的な快楽ではなく、“ゆっくりしみる系”の癒し

🧩4. ランナーズハイとの比較まとめ

快感タイプ主な物質発生条件感覚の特徴
ランナーズハイβ-エンドルフィン
アナンダミド
長時間・中~高強度の有酸素運動高揚、幸福、痛みの消失
フロードーパミン
ノルアドレナリン
集中+挑戦が両立する状況没入、時間の消失
アドレナリン快感アドレナリン
ノルアドレナリン
スプリント、競争状況興奮、鋭敏な感覚、達成後に疲労
セロトニン満足感セロトニンゆるラン、自然環境安堵、精神的安定

🌟まとめ:「走る快感」は一つじゃない!

ランナーズハイはあくまで“ひとつの”脳内現象です。でも、走ることで得られる快感はその日の気分・コース・ペースによって多様に変化します。大切なのは、それぞれの感覚を知り、自分の中で言語化できるようになること。今日あなたが感じた“気持ちよさ”は、どのタイプだったでしょうか?

ばっきー
ばっきー

というわけでランナーズハイだけがランニング中の気持ちよさだけではないんですね。この快感が使い分けられたら毎日のトレーニングが楽しくなりそうです。

参考文献・リサーチベースについて

Csikszentmihalyi, M. (1990). Flow: The Psychology of Optimal Experience. Harper & Row.

Boecker, H., et al. (2008). The runner’s high: opioidergic mechanisms in the human brainCerebral Cortex, 18(11), 2523–2531.

Meeusen, R., & De Meirleir, K. (1995). Exercise and brain neurotransmissionSports Medicine, 20(3), 160–188.

Young, S. N. (2007). How to increase serotonin in the human brain without drugsJ Psychiatry Neurosci, 32(6), 394–399.

Heyman, E., et al. (2012). Intense exercise increases circulating endocannabinoid and BDNF levels in humansPsychoneuroendocrinology, 37(6), 844–851.

次回は今回解説したランニング中に感じることができる快感をトレーニングに組み合わせる方法を考えるよ

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