
走ったことがある人のほとんどが一回は経験したであろうランナーズハイ!その正体に迫るシリーズをやっていくよ!
🧠 ランナーズハイの正体とは?脳内で起きている科学を探る
みんな経験したことある?
ランニング中やその後に感じる「無敵モード」や高揚感――それがいわゆる 「ランナーズハイ(runner’s high)」 です。この現象の背後には、私たちの脳内で起こる複雑な化学反応があります。

ランナーズハイの正体は脳内で分泌される化学物質

1. エンドルフィン(β-エンドルフィン)
エンドルフィンは、脳内で分泌される“天然のモルヒネ”とも呼ばれる物質で、痛みを和らげる効果があります。特にβ-エンドルフィンは、強い鎮痛効果とともに、幸福感や高揚感をもたらす作用があります。
- 分泌タイミング:有酸素運動の強度が高まったとき(例:ランニング30分〜60分以降)
- 脳内作用部位:視床下部や前帯状皮質など、報酬・快感に関連するエリア
エンドルフィンはPETスキャン研究により、運動後に脳内で活性が上昇することが確認されています。しかし、β-エンドルフィンは血液脳関門を通過できないため、脳内での直接的な作用は限定的であると考えられています。そのためランナーズハイの正体はこの物質だけではないと考えられるようになりました。
2. 主役その②:アナンダミド(Anandamide)

正式名はN-アラキドノイルエタノールアミド(AEA)のアナンダミドは内因性のカンナビノイドで1992年に発見された比較的新しい化学物質です。ちなみに「アナンダ(Ananda)」はサンスクリット語で“至福”を意味する言葉で、この化学物質が作用すると幸福感などを味わうことができるということです。
🧠 アナンダミドが作用する場所
アナンダミドは、脳や身体の様々な部位に存在するカンナビノイド受容体(CB1, CB2)に結合して作用します。
受容体 | 主な分布 | 作用 |
CB1 | 脳(大脳皮質、海馬、小脳、基底核など) | 気分調整、記憶、運動制御、痛みの感覚など |
CB2 | 免疫系細胞、脾臓、末梢組織など | 炎症調整、免疫反応抑制など |
アナンダミドは主にCB1に作用することで、「気持ちの良さ」「リラックス感」「幸福感」をもたらします。
2015年に行われたマウス研究では以下のようなことが分かっています。
- 自発的なランニングを行わせたマウスでは、アナンダミドの血中濃度が上昇する
- アナンダミドが不安の軽減や痛覚の抑制に関与していることが判明
- CB1受容体をブロックすると、ランナーズハイ様の反応が出現しなくなる
→ つまり、エンドルフィンだけではなくアナンダミドが“ランナーズハイ”の鍵物質である!ということが明らかになりました。
ハイの正体!アナンダミドとエンドルフィンの効果とその違い
まず アナンダミドの生理的効果をまとめてみると
効果 | 説明 |
🌿 抗不安作用 | ストレス時に脳内で分泌され、不安や恐怖を和らげる |
🌈 気分の安定 | 「なんとなく気持ちが落ち着く」という感覚に寄与 |
💊 鎮痛作用 | 痛みの感覚を抑える働き(エンドルフィンとは別系統) |
🧠 神経可塑(かそ)性の促進 | 記憶の形成や学習にも関与する可能性あり |
🌐 抗炎症作用 | 特にCB2との関係で、免疫系の過剰反応を抑制することがある |
ズバリいい事づくめの効果ですね!しかも気持ちいという感情だけでなく痛みを抑えたり記憶への作用や免疫系への作用など、思いの外の効果もあるようです。では先に出てきたエンドルフィンとはどのように違うのでしょうか↓
🧩 エンドルフィンとの違い
比較項目 | アナンダミド | エンドルフィン |
正体 | 内因性カンナビノイド | 内因性オピオイド |
主な受容体 | CB1, CB2 | μオピオイド受容体など |
脳への作用 | リラックス・気分安定 | 高揚・鎮痛・快感 |
ランニングとの関係 (効果の発現) | 中強度~長時間の有酸素運動で分泌 | 高強度運動で分泌が促進されやすい |
血液脳関門 | 通過しやすい | 一部は通過しにくい |
ここで大事なのは全く違う正体や受容体の違い!どちらも麻薬系のモルヒネや大麻系のマリファナに近い成分であるようですが、どちらも受容体が違い効果も変わります。つまりどういうことかというと、成分の発現条件が変わるということと、もちろん脳への作用が変わるということです。
補足:アナンダミドと大麻のTHCの関係
アナンダミドは、大麻の成分である**THC(テトラヒドロカンナビノール)**と同じCB1受容体に結合します。つまり、**自然に体内で生まれる“内因性マリファナ”**とも言える存在ですが、アナンダミドの作用は穏やかかつ短時間で、依存性も低いので安心してください。
じゃあ、ランナーズハイが起こりやすい条件って?

ランナーズハイは、以下のような条件が整ったときに発生しやすいとされています。
- 有酸素運動を20分以上継続
- 中等度以上の運動強度(心拍数で60〜80%程度)
- 音楽や風景などによる集中状態(いわゆるゾーンに入る)
- ストレスや不安が強いときほど出やすい?
つまり、「苦しいけど楽しい」を超えると、脳がご褒美ホルモンでバランスを取ろうとする状態がハイにつながるのです。このハイによって人は運動を「ご褒美」として脳に学習させていきます。報酬系(ドーパミン系)の活性化によって、「またやりたい!」という気持ちが自然と湧き上がるようになるわけですね!
まとめ

ランナーズハイはただの「気のせい」ではなく、明確な神経化学的現象です。現代人のストレスに対する最強のセルフケアのひとつと言えるかもしれません。
今までランナーズハイの正体はエンドルフィンだと考えられていましたが、アナンダミドという化学物質によっても「走ることが気持ちいい」と感じていることが分かっています。むしろランナーズハイののかなり本質的な成分であると言えます。また気持ちいいだけでなく、気分の安定やストレス耐性向上にも寄与する“癒し系ホルモン”でその効果は多岐にわたります。いわゆる壁を乗り越えないと得られないと思われていたランナーズハイは、継続的な有酸素運動でも経験できると言えます。
📚 参考文献
- Boecker H et al. “The runner’s high: Opioidergic mechanisms in the human brain.” Cereb Cortex. 2008.
- Fuss J et al. “A runner’s high depends on cannabinoid receptors in mice.” PNAS. 2015.

ランナーズハイの正体は分かったかな?じゃあ次のテーマにいくよ!


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