信越五岳や奥三河パワートレイルなど、日本のレースの装備リストを見ると、いまだに「ポイズンリムーバー」が必携品として書かれていることがあります。でも、ふと疑問に思うことがありませんか?「これって本当に毒を吸えるの?」「使うことで症状が軽くなるの?」「海外のレースでも使うの?」
結論から言うと…、最近では、「効果がない」「むしろ使わない方がいい」という話。今回は、その当たりをややふか〜く掘り下げて調べてみました!
そもそもポイズンリムーバーとは?
アウトドアショップでよく見かける、シリンダー型の吸引器。蜂に刺されたり、ヘビに噛まれたりしたときに「毒を吸い出す」ことを目的としています。
しかし実際のところ、毒を吸い出せるという科学的根拠はほとんどありません!


今まで必携でカバンに入れてた!けど軽いのに嵩張るし、形が変(笑)だから収納がいまいちしっくりこなくて…正直、無くなったら嬉しい〜!
世界では「使わない」が主流!
ヘビ咬傷の場合
世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、
吸引は毒を除去できないだけでなく、組織を傷つける可能性がある。
正しい対応は「患部を動かさず、早く搬送すること」。
アメリカの救急ガイドラインでも、“Do NOT use a suction device to remove venom.” と明記。「吸引器を使っても意味がなく、むしろ害になる場合がある」と書かれています!
ハチ刺されの場合
アメリカやイギリスの救急ガイドラインでは、
「刺されたら速やかに針を抜くこと。吸引器は効果がない」とされています。
冷却や抗ヒスタミン薬での対応が基本で、吸引器の有効性を示すデータはありません。
つまり、国際的には「ポイズンリムーバーは不要」が共通の考え方なんです!
実際の研究たちを紹介します!
🧪 ① Alberts MB et al., Annals of Emergency Medicine, 2004
米国の有名な研究。Sawyer Extractorを使い、放射性アルブミンを皮下注入した人で測定。
• 吸引器で除去できたのは わずか0.04%。
• 全身負荷の減少も 約2%のみ。
→ 「臨床的に意味を持つ除去は不可能」(PMID: 14747805)
🧪 ② Bush SP et al., Annals of Emergency Medicine, 2000
ラットに毒液を注入し、吸引群と非吸引群を比較。
• 結果:組織中の毒濃度・壊死範囲ともに差なし。
• さらに吸引群では出血・腫脹が強い傾向。
→ 「効果なし+組織障害のリスクあり」
🧪 ③ Holstege CP et al., Wilderness & Environmental Medicine, 2002
人の皮下組織モデルを用いた吸引実験。
• ネガティブ圧をかけても皮膚下からの実質的な液体除去は困難。
• 吸引時間を延ばすほど皮膚損傷リスク増加。
🧪 ④ Spano S et al., Emerg Med Clin North Am, 2018(総説)
「蛇咬傷に対する吸引器使用は有効性が実証されず、むしろ有害。皮膚損傷・治癒遅延を招く可能性がある。」
🧪 ⑤ MDPI: Tropical Medicine and Infectious Disease, 2018
豚モデルで吸引器を使用した結果、皮下出血と治癒遅延が認められた。
→ 「切開+吸引、吸引単独いずれも推奨しない」
🧪 ⑥ Clinical toxicology reviews / CDC まとめ(2015–2023)
米国中毒学会・CDCまとめ:
「吸引器の市販利用は科学的根拠がなく、誤った安心感を与える」

科学的にも非有効性が実証されているんだね。ちょっと驚いたよ!
日本のガイドラインでも実は推奨なし?!
実は日本の各種ガイドラインでも、推奨されているものは、ありません。
- 日本救急医学会 総説:「切開・吸引・駆血の有効性は証明されていない」
- 消防庁救急教本:「創からの毒素の吸引は行わない」
- 日本赤十字社 ファーストエイド解説:「口で吸い出すのは感染リスクあり。行わない」
- JRC蘇生ガイドライン2020:「蛇咬傷では圧迫固定法と搬送を推奨。吸引器の有効性は認められない。」
つまり、日本の救急領域でも「使わないほうがいい」という立場が主流です!!
じゃあ何で日本では「推奨」が多い?
「安全対策を“見せる”文化」?
日本の大会では、参加者への安全配慮を「形にして見せる」ことが重視されがちです。「できる限り最大に配慮してますよ〜」という感じ。実際の効果よりも、“対策しています”という姿勢を示す意味が強いのかもしれません。
「登山文化の名残」?
登山用品店では昔から定番アイテムのひとつ。古い資料では応急処置として「刺されたらとりあえず吸う」という発想があったので、トレイルランの装備にも受け継がれているようです。

あくまで憶測だけど、古き良き風習をなが〜く残す、日本の習慣なのかもね。
逆に有害?!医学的にはデメリットもある
ちなみにポイズンリムーバーを使うことで、次のようなリスクがあります。
- 強い吸引で皮膚や組織を傷つける
- 同じ器具を使い回すことで感染リスクがある
- 吸引に手間取って安静保持や搬送が遅れる
繰り返しですが、「毒を抜けない上に、害になる可能性もある」というのが医学的な見解です。
じゃあどうしたらいいの?正しい対応って?
「道具を持つこと」よりも「正しく対応できること」が大切です!
🐝蜂に刺されたとき
- まず安全な場所へ離れる
- 針をすぐに抜く(方法は何でもOK)
- 冷やす
- 全身症状があればエピペン+119番通報
🐍 ヘビに噛まれたとき
- 安静・患肢固定
- 指輪・時計を外す
- 搬送(安易な移動はしない)
🚫 吸引・切開・駆血はすべて非推奨!
もし必携品を見直すなら、ポイズンリムーバーよりも冷却剤・抗ヒスタミン薬・絆創膏・ブランケット のほうが実用的なようです。
ちなみに海外レースではどうか?と疑問に思って調べましたが、UTMB、Lavaredo、Western States、Ultra-Trail Australia、TransJeju を含めたメジャー大会で、 “Venom extractor”の明記はゼロでした。
備えとは道具ではなく…
登山やトレランの世界では、「持っていると安心」という文化が根強く残っています。
でも、“持つ”より“正しく動ける”ことのほうが命を守ります。
「安心グッズ」から「根拠に基づいた応急処置」へ。これが山岳安全文化になるはずです!

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