
Runnetとかでたまに流れているPRの1つにMCTオイル活用!とかあって、MCTオイル入りの食品も増えてきている昨今ですが本当に効果があるのかをまた調べてみたよ

1. まずMCTオイルってなに?
「MCTオイル(Medium Chain Triglyceride)」は中鎖脂肪酸油の略称で、炭素数が8〜10個程度の脂肪酸(主にカプリル酸C8・カプリン酸C10)から構成されます。
一般的な食用油(オリーブオイルや大豆油など)に多い「長鎖脂肪酸(LCT)」に比べ、消化・吸収が格段に速いのが特徴です。
一般的な食用油のLCTは一度リンパ管を経由して全身に運ばれるのに対し、MCTは直接門脈を通って肝臓へ運ばれ、すぐにβ酸化やケトン体生成に利用されます。
そのため、摂取後短時間でエネルギーに変換されやすく、栄養補助や医療栄養の分野では昔から利用されてきました。
近年では、
「すばやくエネルギーになる」
「脂肪として蓄積されにくい」
「体脂肪を減らす」
といった宣伝文句とともに、MCT入りドリンクやプロテインバー、コーヒー、ヨーグルトなどが並ぶようになりました。
SNSでも「朝にMCTコーヒーを飲むと脂肪が燃える」「トレーニング前に飲むと集中力が上がる」といった投稿が見られ、特に健康志向・ダイエット層で注目を集めています。
しかし、こうした“脂肪燃焼オイル”の効果はどこまで科学的に裏付けられているのでしょうか?
そしてランナーにとって、摂取する意味は本当にあるのでしょうか?


MCTランニングクラブなんてものがあるくらい有名なんだね!
2. 広告がうたう効果は何が根拠になっているのか
日本国内で最も広く販売されている「日清MCTオイルHC」は、機能性表示食品として届出されています。
その表示内容は次の通りです:
“BMIが高めの方の日常活動時の脂肪の燃焼に関与し、体脂肪やウエスト周囲径を減らすことが報告されています。”
この「報告されています」という根拠文献は、日本人を対象とした臨床研究であり、具体的には以下の試験です。
MCTオイルの科学的根拠(主要研究の詳細)
(1) Kasai et al., J Nutr Sci Vitaminol, 2003
- 対象:BMI 23〜30の男女78名
- 介入:MCT(カプリル酸+カプリン酸)2 g/日 vs LCT(大豆油由来)2 g/日
- 期間:12週間
- 方法:食事内容・摂取カロリーを同一に保ち、朝食または夕食にオイルを摂取。
- 結果:
- MCT群で体脂肪率−1.5%(p<0.05)
- ウエスト周囲径−1.4 cm(p<0.05)
- 体重−1.0 kg未満(有意傾向)
- 解釈:長鎖脂肪酸を中鎖脂肪酸に置き換えることで、エネルギー消費がわずかに増え、脂肪蓄積が抑えられた。
この研究はBMIが高めの「一般人」を対象としたものであり、トレーニング経験者やアスリートではありません。
また減少幅は1〜2%と小さく、「やせる」ではなく「やや脂肪の増加を防ぐ」レベルです。
(2) Nosaka et al., J Nutr Sci Vitaminol, 2009
- 対象:BMI 23〜30の男女40名
- 介入:MCT 2 g/日 vs LCT 2 g/日
- 期間:12週間
- 結果:MCT群で
- 体重 −1.8%, 体脂肪率 −1.6%, ウエスト −1.5 cm
- 内臓脂肪面積(CT計測)−5.8 cm²
- 結論:小量でも継続摂取により内臓脂肪減少が確認された。
これらの研究が、現在の「脂肪燃焼・ウエスト減少」の根拠となっています。
(3) St-Onge & Jones, Obes Res, 2003
- 対象:過体重女性24名
- 介入:MCT(摂取エネルギーの40%を脂質とし、その一部をMCT化)
- 期間:12週間
- 結果:MCT群で
- 体脂肪 −1.5 kg(p<0.05)
- 24時間エネルギー消費 +100 kcal(p<0.05)
- 機序考察:MCTは酸化速度が速いため、**DIT(食事誘発性熱産生)**が増大し、体脂肪の蓄積を抑制すると推定。
(4) Takeuchi et al., J Nutr Sci Vitaminol, 2020
- 対象:健康成人12名(BMI平均22.7)
- 介入:MCT 6 g/日 × 2週間
- 結果:
- 安静時RER(呼吸交換比)低下(p<0.05)=脂質酸化↑
- エネルギー消費↑(+3.2%)
- ただし体脂肪・体重変化は非有意。
- 解釈:短期間でも脂質代謝指標が改善するが、実際の減量効果は限定的。
(5) メタ解析:Mumme & Stonehouse, J Acad Nutr Diet, 2015
- 13件のRCT(総計817名)を統合。
- MCT vs LCTでの体重減少差:−0.5〜0.7 kg(有意)
- ただし研究間のばらつきが大きく、臨床的意義は小さいと結論。
“MCT may cause small reductions in body weight and composition, but these changes are not of clinical significance.”
ランナーや持久系アスリートでの検証
脂肪燃焼=持久力アップ、と連想しやすいですが、実際には話はそう単純ではありません。
ランナー・サイクリストなど「持久系スポーツ」を対象にした研究では、MCTの効果は一貫して否定的です。
(1) Jeukendrup et al., Eur J Appl Physiol, 1998
- 対象:訓練サイクリスト
- 介入:MCT(60 g)+CHO(炭水化物) vs CHOのみ
- 結果:
- 脂質酸化率は上昇したが、
- タイムトライアル成績に差なし。
- 50%以上の被験者が腹部不快感・下痢を訴えた。
- 結論:高用量のMCTは消化器リスクが高く、パフォーマンス改善効果はなし。
(2) Angus et al., Eur J Appl Physiol, 2000
- 対象:サイクリスト(100 kmタイムトライアル)
- 条件:①CHO(炭水化物) ②CHO+MCT(29 g) ③MCT単独
- 結果:
- CHO群が最も高成績。
- CHO+MCTは上乗せ効果なし。
- MCT単独群は低成績+強いGI症状。
(3) Goedecke et al., Int J Sport Nutr Exerc Metab, 2005
- 対象:エリートサイクリスト(最大酸素摂取量VO₂max > 60 ml/kg/min)
- 介入:MCT(25 g/h)+CHO (炭水化物)vs CHOのみ
- 結果:
- スプリント出力低下(p<0.05)
- 被験者の半数が腹部膨満感や下痢を訴えた。
- 結論:MCT摂取は運動中パフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性。
(4) 総括レビュー:Martens et al., Eur J Clin Nutr, 2006
“Although MCT increases fat oxidation, it does not improve endurance performance, and gastrointestinal distress may counteract potential benefits.”
(MCTは脂質酸化を高めるが、持久力パフォーマンスは改善せず。消化器症状がむしろ不利益をもたらす。)
3. ランナーにとっての実際的評価
① 代謝効率の上限はすでに高い
日常的に走っているランナーは、筋線維レベルで脂肪酸酸化酵素(CPT-1, β-HADなど)が発達しており、安静時・運動時ともに脂質利用率が高い。
MCTによる「脂質代謝促進」は、そうした訓練適応をすでに持つランナーでは上乗せ効果がほとんどありません。
② 高用量摂取のリスク
30〜60 gのMCTを運動前または中に摂取した研究では、50〜70%の被験者が胃痛・嘔気・下痢を訴える。
これは脂肪吸収速度が速すぎるためで、実戦的な摂取は難しい。
レース中に取り入れようとすれば、むしろパフォーマンスを損なうリスクの方が大きいです。
③ 糖質代謝の優位性
フルマラソンなど高強度域(60〜85%VO₂max)では、エネルギー供給の主役はグリコーゲンです。
MCTが燃える速度は糖質より遅く、ATP生成効率でも劣ります。
したがって、「エネルギー効率向上」を目的に摂取しても、実際の走行パフォーマンスには結びつきません。
4. 実際に使うなら ― MCTの位置づけ
| 目的 | 科学的根拠 | 推奨される取り入れ方 |
|---|---|---|
| 体脂肪減少 | 軽度肥満者で△(−1〜2%程度) | 食事の置き換えとして2〜6 g/日を継続 |
| 脂質代謝改善 | RER低下(安静時)あり | 日常摂取で効果が出る可能性 |
| エネルギー効率向上 | × 効果なし | 糖質摂取を優先 |
| パフォーマンス向上 | × むしろ低下リスク | 練習・レース中は非推奨 |

日常的な摂取、食事で置き換えていくとまあまあBMIが高い人には効果があるけど普段から脂質代謝が高いランナーにはあまり効果がないということらしいね。そもそも適切な摂取量に関しても定義がないのが現状かな?
5. 結論!
MCTオイルは「燃えるオイル」ではあるが、「走りを変えるオイル」ではない。
MCTオイルは確かに、代謝生理学的には「脂質酸化をわずかに促す」オイルです。
しかしその効果は、あくまで日常生活レベルの活動を行うBMI高めの人における“わずかな脂肪減少”にとどまります。
ランナーのように代謝がすでに最適化された人にとっては、体脂肪減少もエネルギー効率改善もほぼ見込めません。
さらに、運動前やレース中の摂取は消化器への負担が大きく、**「燃焼を助ける」どころか「走る足を止める」**結果になりかねません。
では、MCTをどう使うか?
- 朝食やコーヒーに**小さじ1杯(約5 g)**加える
- 糖質を減らした食事でエネルギー不足を補う
- 長期的な体重コントロールや間食代替として利用
このように「パフォーマンスを高める燃料」ではなく、
**「日常の代謝サポート」や「食事の一部置き換え」**として取り入れるのが、現実的かつ安全な使い方です。

摂取して体に悪いものでもないし、日々の生活に取り組むと普段から体重を気にするランナーにとっても体重維持の一助にはなるかな?
6. まとめ(ランナー視点)
✅ 一般人(BMI高め) → 体脂肪減少・RER低下など軽度の代謝改善あり
✅ ランナー(BMI低・代謝適応あり) → パフォーマンス改善効果はなさそう
⚠️ 高用量摂取は消化器症状リスク高(推奨摂取量は見つけられなかった)
🧠 摂取するなら「走るため」ではなく「整えるため」

いろいろな効果を謳うサプリや成分が出てくる中でもMCTオイルは結構良さそうと思ってたんだけどなあ。今後の発展に期待です!
🔍 参考文献
- Kasai M, et al. J Nutr Sci Vitaminol (2003) 49:163–168.
- Nosaka N, et al. J Nutr Sci Vitaminol (2009) 55:120–125.
- Takeuchi H, et al. J Nutr Sci Vitaminol (2020) 66:236–242.
- St-Onge MP, Jones PJ. Obes Res (2003) 11:395–402.
- Mumme K, Stonehouse W. J Acad Nutr Diet (2015) 115:749–765.
- Jeukendrup AE, et al. Eur J Appl Physiol (1998) 78:315–321.
- Angus DJ, et al. Eur J Appl Physiol (2000) 82:160–167.
- Goedecke JH, et al. Int J Sport Nutr Exerc Metab (2005) 15:35–47.
- Martens K, et al. Eur J Clin Nutr (2006) 60:1059–1068.

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