はじめに:テーピングの目的が変わった
従来テーピングは、関節を固定し、損傷部位を守るための医療的処置でした。
特に足関節捻挫や膝靭帯損傷で、動きを制限し再発を防ぐ目的でテープが使われてきました。

ところが近年登場したキネシオテープ(Kinesio Tape)は、従来の“固定”とは正反対のコンセプトを持っています。伸縮性のあるテープを皮膚の上に貼ることで、筋肉の動きをサポートし、以下の効果を期待すると言うのです。

- パフォーマンスを高める
- 疲労を軽減する
- 可動域を改善する
- 回復を促進する
つまり、テーピングは“固定するため”から“動かすため”のツールへと進化しているようです。
では、この「貼るだけで速くなる」「動きが良くなる」という主張には、実際にどれほど科学的根拠があるのでしょうか。ここでは、近年の研究をもとにその真偽を検証していきます。

要は結構このテープ高いけど本当に意味あるの?っていう話です
1. キネシオテープの理論:固定ではなく「皮膚刺激」

キネシオテープの創始者・加瀬建造氏(1970年代)は、テープの“張力”を利用して皮膚を持ち上げ、筋肉やリンパの流れを改善するという理論を提唱しました(論文①)。
このメカニズムは、神経生理学的には次のように説明されます。
- 皮膚刺激による感覚入力
→ 皮膚の機械受容器が刺激され、姿勢や動作の“フィードバック”が改善する - 筋膜・筋肉の動きの補助
→ テープの張力が筋走行をガイドし、筋活動パターンを調整する - 疼痛抑制・血流促進
→ 軽度の皮膚リフトが組織間圧を変化させ、リンパ流や循環を助ける可能性
こうした理論が“貼るだけで動きが変わる”という信念を支えています。
ただし、この機序が実際にパフォーマンス向上に寄与しているかどうかは、実証的に確認する必要があります。

ほんとに皮膚の上からの刺激でこんなドラマティックに変化が起きるのかな?
キネシオテープの創始者 加瀬さんの本はこちら↓↓
2. 科学的検証①:パフォーマンス向上はあるのか?
2-1. 全体的な結論:有意な効果はほぼ認められない
2021年の大規模メタ解析(論文②)は、84件の研究・2,684名を解析し、
キネシオテープが、ジャンプ力・走る速度・筋力・関節可動域に及ぼす影響を検証しました。
結果としては、いずれの指標においても有意な改善は認められませんでした。
効果量は非常に小さく、実用的な意味は乏しいとされています。
つまり、「キネシオテープを貼るだけで速くなる」「筋出力が上がる」といった主張を裏付ける科学的証拠は現時点で存在しませんでした。
2-2. 一部に見られる“短期的補助効果”
一方で、一部の研究では瞬発力や安定性の短期的改善を報告しています。
たとえば2018年の研究では、大腿四頭筋や腓腹筋にキネシオテープを貼ったアスリート群で、
疲労時にパフォーマンスの低下がやや緩やかになったという結果が得られています(論文③)。
また、2013年のランダム化試験では、貼付直後の筋力測定値が数%上昇したという報告もあります(論文④)。ただし、これらの効果は一時的かつ被験者依存的であり、再現性は高くありません。
3. 科学的検証②:疲労軽減や回復促進はどうか?
3-1. 筋肉痛・疲労に対する研究
複数のランダム化試験では、キネシオテープ貼付群で主観的な疲労感や筋肉痛(DOMS)が軽減したという報告があります(論文⑤)。
しかし、血液検査による筋損傷マーカー(CK, LDH, ミオグロビンなど)には有意な差がないという結果がほとんどです。
これは、感覚的な快適さやプラセボ効果によって「疲れにくい」と感じている可能性が高いと考えられています。
3-2. 循環やリンパ流の改善
加瀬理論に基づく「皮膚リフト効果」により、浮腫(むくみ)が軽減するという報告もあります(論文⑥)。しかし、効果は軽度であり、運動パフォーマンスへの寄与は限定的です。

4. 科学的検証③:バランス・動作制御・感覚への影響
2024年のシステマティックレビュー(論文⑦)は、
キネシオテープが “joint repositioning error” を減少させることを示しました。
貼ることで関節位置の「感じ方」が精度良くなるという結果です。
この“感覚制御の補助”という観点では一定の科学的支持があり、特に足関節不安定性(CAI)をもつアスリートでは、バランス保持の改善を報告する研究も見られます(論文⑧)。
ただし、これらは“動作の再現性”を高める程度であり、筋出力や速度を上げる効果ではない点に注意が必要です。
5. 総括:科学が示す「キネシオテープの実像」
それぞれの検証をざっと表にまとめると以下のようになります。
| 評価項目 | 科学的根拠 | 効果の傾向 | 解釈 |
|---|---|---|---|
| 筋力・速度 | 明確な効果なし(論文②) | ✖ | 貼っても出力は変わらない |
| パフォーマンス維持(疲労時の) | 一部で微小効果(論文③) | △ | 感覚入力の補助の可能性 |
| 疲労・筋肉痛 | 主観的軽減あり(論文⑤) | △ | プラセボまたは感覚的効果 |
| むくみ・循環 | 軽度改善(論文⑥) | △ | 医療的補助レベル |
| バランス・位置覚 | 改善傾向あり(論文⑦,⑧) | ○ | 感覚制御補助として有用 |

リカバリー目的や、不安定性がある人には良い効果が期待できる可能性があるね。
6. 実践的まとめ:「貼る意味はあるか?」
科学的に見れば、キネシオテープは「筋力を高める」「走力を上げる」ツールではありません。
しかし、
- 感覚的な安定感をもたらす
- 動作の再現性を高める
- 不安や痛みを和らげる
といった身体認識の補助ツールとしての価値は確かにあるかもしれません。
特に、
- 怪我明けの復帰期
- 足関節の不安定性を抱えるランナー
- 「踏み込みの感覚」を確かめたいトレーニング時
には、短期的に貼ることで感覚のチューニングができる可能性があります!
ただし、貼りっぱなしでは効果が持続しません。研究では30〜90分で関節制動効果が低下することが報告されており(論文⑨)、定期的な貼り替えと正しい貼付方向が実践上の鍵となります。

トレイルのレースなんかだと結構剥がれているまま走っている人いるもんね
なかなかこんな短い間隔で張り替えていくのも難しそうだけど…
7. 結論
キネシオテープは“魔法のパフォーマンスツール”ではない。
しかし、“身体感覚を整える補助ツール”としての価値はある。
筋出力やスピードを直接上げることはできませんが、
感覚制御、バランス、安心感の向上によって動きをより再現性高く、安定させる可能性があります。
テープを貼ることが「体を意識する」きっかけになり、
結果的にフォームや姿勢を整える手助けとなるなら――
それは十分、科学的にも“意味のある”使い方だと言えるでしょう!
参考文献
- Kase K, et al. Therapeutic Mechanisms of Kinesio Taping. J Orthop Sports Phys Ther. 2013.
- Csapo R, et al. Kinesio taping does not improve functional performance: Systematic review. Clin Rehabil. 2021.
- Fu TC, et al. Effect of kinesiology taping on muscle strength and fatigue in athletes. J Sci Med Sport. 2018.
- Lins C, et al. Immediate effects of Kinesio taping on muscle strength: randomized trial. J Sports Med. 2013.
- Briem K, et al. Kinesio tape and delayed-onset muscle soreness. J Sports Sci. 2011.
- Vercelli S, et al. Kinesio taping and lymphatic drainage in edema management. Rehabil Res Pract. 2015.
- Maeda N, et al. Influence of taping on joint proprioception: Systematic review and meta-analysis. BMC Musculoskelet Disord. 2024.
- de-la-Torre A, et al. Kinesio taping and balance in chronic ankle instability: Randomized trial. J Athl Train. 2022.
- Kim JH, et al. Duration of taping effects on ankle dorsiflexion during activity. Sports Health. 2023.

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