山を走るとき、私たちはいつも自然の中に「お邪魔している」存在です。最近、日本各地で熊による被害が相次いでいます。実はばっきーは OSJ KAMI に出場した際、コース上で熊に遭遇したことがあり、その緊張感は今でも忘れられないようです。
今回は、トレイルランナーにとっての熊対策を、もう一度きちんと見つめ直したいと思います。
熊鈴:遭わないための第一歩、ただし過信は禁物
熊鈴は、山中で自分の存在を音で知らせるための道具です。ハイキング中に、リンリンと鈴の音で他のハイカーの存在に気づくこともありますね。
登山やトレイルランでは昔から定番装備として知られていますが、実は科学的な効果については賛否が分かれています。

実はアメリカの国立公園局やカナダのParks Canadaでは、「Bear bells are not effective(熊鈴は十分に効果的とは言えない)」と明記されています。
その理由は、沢音や風で音がかき消されやすく、慣れた個体には通用しないことがあるからです。
より強く推奨されているのは、人の声を出すことや、複数人で会話しながら進むこと。
それでも熊鈴は、「静かな山中でこちらの存在を知らせる」ためのきっかけとしては有効とされます。
大切なのは「鈴が鳴っている=安全」と思い込まず、“熊に遭わない努力”の一部として使うことです。
日本の大会で熊鈴は必携?
日本の山岳地帯は、北海道のヒグマ、本州のツキノワグマと、広く熊の生息域に含まれています。
そのため、一部の大会では熊鈴を「推奨」ではなく「必携装備」として扱い始めています。
- Kaga Spa Trail Endurance 100 by UTMB(石川):公式ルールで全選手ベアベル必携。
- 大雪山トレイルジャーニー(北海道):常時ベアベルを鳴らすよう義務づけ。
- 甲州アルプス・オートルート(山梨):必携品リストに熊鈴を明記。
一方、UTMFや信越五岳などの大規模大会では「推奨装備」として記載されることが多く、
コースが住宅地や観光地を通る区間では「鈴を鳴らさないように」と注意書きがあることもあります。
このように、「熊鈴=必携」か「推奨」かは地域や大会の方針によって異なるのが現状です。
海外の事情はどうなの?
海外では事情がかなり違います。
ヨーロッパの代表的な大会、UTMB Mont-Blanc の必携品リストには熊鈴も熊スプレーも含まれていません。これは単に文化の違いではなく、モンブラン周辺に熊が生息していないためです。
アルプスの熊は東欧(スロバキア、ルーマニアなど)に限られ、フランス~スイス~イタリアのUTMBエリアではほぼ確認されていません。
一方、北米では熊との遭遇リスクが桁違い!たとえばカナダ・アルバータ州のGrizzly Ultra Marathonでは、「ベアスプレーを持っていないとスタートできない」というルールが明文化されています。
米国のWyoming Range 100でも同様に、全ランナーのベアスプレー携行を義務付け。
気づきましたか?北米では、熊鈴よりも熊スプレーが“必携”の対象になっているのです!
熊スプレー:持つだけでなく、使えるように
ベアスプレーは、いざという時に熊の突進を止める最終手段です。
しかし、ただ腰につけているだけでは意味がありません。「安全ピンを外して、構えて、噴射する」までを2〜3秒以内にできるかがカギ。実際に練習しておかないと、本番ではまず使えません。

また、風向きや距離の判断も必要です。自分が必ず風上にいないと、噴射しても悲惨なことになります。
北米の大会では、使用トレーニング動画の事前視聴や操作デモのチェックを求める例もあり、単なる装備ではなく「扱える安全装備」として位置づけられています。
ただ、このように熊スプレーは大変高価なので、現実的に練習に使うのは難しいです。そこで、各地で模擬スプレー等を使用した講習会が開催されているので、参加するのもよいでしょう!
日本では今後、どうすべきなのか?
これまで日本では、熊ベルが“熊対策装備”として定着してきました。けれど、近年の熊出没は山奥だけでなく登山口や集落周辺にも及び、「遭遇しない努力」だけではリスクを避けきれない状況が増えています。では、実際にはどういった対策が有効なのでしょうか?
① 遭遇“前”:バッタリを避ける
- 人の声で予告(定期的に声かけ・手拍子/見通しの悪い区間、沢音・強風時は特に)
- ベアベルは“補助”:音が届きにくい環境・慣れた個体には効きにくい。大会では、禁止区間(住宅地など)が設定されることもあるため消音対応を!
- 前情報:地元行政の出没注意ページや大会の野生動物注意を確認。熊スプレーについては、航空機持込不可・現地調達等、物流にも注意を!
② 遭遇“後”:最後の盾
- 熊スプレー:手の届く位置(胸・腰)に装着し、使い方を事前練習。アメリカ国立公園局(NPS)の解説動画・手順に目を通す。
- 行動原則:走らない・背を見せない・グループを崩さない。状況により後退しつつ穏やかに低い声で話し続ける(鳴き声を真似したりするのはNG)。
北米でベアスプレーが必携化されたのは、「遭遇してしまう前提」での安全管理の結果です。
もし日本でも、ヒグマやツキノワグマの活動域が拡大し続けるなら、
トレイルラン大会でもベアスプレーを“必携装備”として検討すべき時期に来ているのかもしれません。
装備が増えることはランナーにとって負担ですが、
命を守るための装備なら、それは「大会の安全文化」として育っていくはずです。

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